熊は本当に繁殖力が高い?意外なデータで見える真実

熊・野生動物

最終更新日:2025年11月7日

熊は増えているの? 熊の繁殖能力は本当に高いのか?

最近、「熊のニュース」を目にする機会が本当に増えました。

以前は「北海道や一部地域の話」と思っていましたが、今では全国的に熊の被害が報じられ、ついに政府まで動き出す事態になっています。

【 高市総理「クマ対策はスピード感を持って」(Yahoo!ニュース)】

正直、私は「熊って増えているけど、そんなに繁殖力が高い動物なの?」と思っていました。

でも調べてみると、実際の熊は想像以上に繁殖能力が高く、
その数が増えていることがわかりました。

では、なぜここ数年、特に今年に入ってから急に熊の遭遇や被害が増えているのでしょうか?

この記事では、熊の繁殖力と個体数のデータをもとに、その背景をわかりやすく解説していきます。

熊は繁殖力が高い動物だった

日本には、北海道に生息するヒグマと、本州に生息するツキノワグマの2種類の熊がいます。

どちらも見た目や性格だけでなく、繁殖サイクルや繁殖力にも違いがあります。

ここでは、それぞれの熊の繁殖の特徴とサイクルをわかりやすく解説します。

ヒグマの繁殖力と繁殖サイクル

項目内容
交尾期5〜7月
出産間隔約2〜3年おき
産仔数1〜3頭(平均2頭)
子育て期間約1.5〜2年(次の繁殖期まで同伴)

 

ツキノワグマの 繁殖サイクル  

項目内容
交尾期6〜8月
出産間隔約2〜3年おき
産仔数1〜2頭
子育て期間約1.5〜2年(次の繁殖期まで同伴)

 

ヒグマもツキノワグマも繁殖力は高いが、小熊の生存率は低い

ヒグマもツキノワグマも、年間でおよそ20%程度の繁殖力があることが、複数の研究から明らかになっています。

ただし、自然環境では天敵や飢え、狩猟などによって多くの個体が失われるため、実際には「毎年20%増える」という単純な話ではありません。

出典:DIAMOND on-line クマ「頭数」が増え「生息域」が拡大している、意外な県・地域の実名【数字で納得!】

 

特に小熊の生存率は非常に低く、北海道・知床ルシャ地区の調査では、
ヒグマの子グマのうち約2〜3割が1年以内に死亡することが確認されています。



さらに2年目の春までに生き残る個体は全体の4割程度とされ、年によっては大半が死んでしまうケースも報告されています。出典:知床博物館協力会 長期観察が明らかにした子グマたちの生き様 PDF

都道府県別にみた熊の個体数の増減データ

全国的に熊の個体数は増加傾向にありますが、
地域によってその増え方には大きな差があります。

意外にも、ここ数年で最も増加しているのは宮城県で、
東北地方全体でも出没件数が急増しています。

一方で、四国では減少傾向にあり、九州ではすでに絶滅したとされています。

北海道・岩手県

北海道では、1991年の推定中央値が約5,514頭でしたが、2023年末には約1万1,661頭に達し、約2.1倍に増加しています。

これは、年間でおよそ2.4%の増加率に相当します。

一方、岩手県では2016年度(第4次ツキノワグマ保護管理計画の開始時)の推定個体数が約3,400頭でしたが、2020年度末には約3,700頭に増加しています(大規模ヘア・トラップ調査より)。つまり、年間平均で約2.1%の増加があったと推定されています。

本州で最も増えているのは宮城県

宮城県では、2008年度に推定約633頭だったツキノワグマの個体数(中央値)が、2020年度には約3,147頭にまで増加しています。

この12年間で約5倍に増えた計算となり、年間平均ではおよそ14.3%増という非常に高い増加率を示しています。

四国では減少、九州ではすでに絶滅

全国的に熊の個体数が増加している中で、四国だけは減少傾向にあります。

さらに九州では、すでに野生のツキノワグマが絶滅したと環境省が2012年に発表しています。

九州では、人工林の拡大や山地の分断などにより、熊が生息しにくい環境となっており、

再び定着する可能性は極めて低いと考えられています。

出典:Yahoo!ニュース【クマ】絶滅宣言の九州に再上陸は?

なぜ、ここまで熊の個体数が増えたのか?

全国的に個体数が増えている熊。では、なぜここまで急激に増えたのでしょうか?

その背景には、過去の歴史的な要因と、熊の繁殖力に対する誤った認識が関係していることがわかってきました。

歴史的背景 ― 乱獲から保護政策への転換

日本では、明治から昭和初期にかけて多くの野生動物が乱獲されました。

さらに、木材資源の過剰利用により森林が荒廃し、いわゆる“はげ山”が各地に広がったことで、ツキノワグマをはじめとする野生動物の生息環境も大きく悪化しました。

その結果、ツキノワグマの個体数も大幅に減少しましたが、1999年に「特定計画制度」が発足し、捕獲の規制や保護管理が進められます。

この制度は、野生動物による被害対策や地域個体群の安定的な存続を目的としたものでした。

しかし、こうした“乱獲から保護へ”という政策の転換が進む一方で、現在では熊の個体数が増えすぎるという新たな課題を生んでいます。

出典:Wedge ONLINE【増えすぎたクマ】このままでは人間のコントロール不能なフェーズに?クマ対応の「地域力」向上に必要なこと

学術的データの不足と誤認

2010年度に全国で熊の大量出没が発生した際、兵庫県が実施した調査によって新たな事実が明らかになりました。

従来、「クマ類は繁殖力が弱く、個体数が増えにくい動物」と考えられてきましたが、

それは主に海外の研究データをもとにした推測であり、日本国内での実データはほとんど存在していなかったのです。

兵庫県の調査結果からは、年によってはシカに匹敵するほどの増加率を示すことが確認され、さらに熊の寿命が長いこともわかりました。

この調査で初めて、「熊が想像以上のペースで増えている」ことがわかったのです。

熊の個体数が増えただけではない、被害拡大の理由

熊の個体数が増えるにつれて、人との遭遇や被害も拡大しています。

しかし、今年に入って急激に被害件数が増えた原因は、単に熊の数が増えたからではありません。

その背景には、餌不足による行動範囲の拡大や、人慣れした熊の存在が関係していると考えられます。

餌不足による行動範囲の拡大

近年、熊の主な餌であるドングリの不作が続いており、食糧不足に陥った熊が行動範囲を広げて人里に出没するケースが増えています。

特に、熊の個体数増加とドングリの凶作が重なったことで、

飢えた熊が生きるために行動範囲を広げている

と、
酪農学園大学の伊吾田宏正准教授(狩猟管理学)も指摘しています。
【Yahoo!ニュースクマの市街地出没、餌不足が要因 生ごみ・家庭菜園に注意を】

※熊の餌不足については【熊のエサ不足が深刻化…原因は人間だった?】で解説しています。

人慣れした熊の増加

被害が増えている背景には、人や生活音に慣れた熊の存在もあります。

もともと熊は臆病な性格で、人の気配や物音を察知すると距離を取る習性を持っています。

しかし、熊は学習能力が高く、人里に降りることで簡単に食べ物を得られるうえ危険が少ないと学習すると、繰り返し人里に現れるようになります。

このような熊は「アーバンベア」と呼ばれています。

こうしたアーバンベアの増加も、近年の被害拡大の大きな要因とされています。

 

まとめ:熊は繁殖力が高く、被害は「数が増えただけ」ではない

ここまで、熊の繁殖力や個体数の変化について見てきました。

歴史的に見ると、明治〜昭和にかけての乱獲や森林伐採で生息環境が悪化し、その反省から保護活動へと転換した結果、現在の“増えすぎ”という状況が生まれたことがわかりました。

自然を人間が完全にコントロールすることは本当に難しいと感じます。

また、私が特に驚いたのは、熊の繁殖力に関する日本のデータが少なかったこと。

最近になってようやく、熊が実は非常に高い繁殖力を持つ動物だと認識され始めている点です。

そして、熊の被害増加は単に個体数が増えたからではなく、

  • 餌不足による行動範囲の拡大

  • 人に慣れた熊(アーバンベア)の増加

    といった要因が重なった結果だと考えられます。

本記事が、熊に関する正しい理解を深め、今後の情報を読み取る際の参考になれば幸いです。

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