更新日:2025年12月3日
熊の寿命は何年?野生と動物園での違い、ライフサイクルを完全解説
熊に関する記事をこれまで複数執筆してきましたが、今回はその中でも「熊の寿命」に焦点を当てて整理します。近年の個体数増加にともない、駆除・間引き・保護の議論が活発化していますが、そもそも熊が「何年生きる動物なのか」を理解することは、こうした議論を考えるうえで欠かせません。
私自身、増え続ける熊のニュースに疑問を持ち、証券会社で身につけた『徹底的に調べる癖』から、生態やデータをできるだけ客観的に整理しています。
この記事では

・熊の寿命
・野生と飼育下の熊の寿命の違い
・野生と飼育下の熊の最高齢は?
・熊の誕生から死ぬまで
・熊の1年のライフサイクル
がわかります。
本記事が、皆様のニュースを深く理解するための一助になれば幸いです。
日本の熊の寿命は?
日本に生息する熊はツキノワグマとヒグマの2種類で、野生と飼育下では寿命が大きく異なります。ここでは種による違い、野生と動物園の寿命差、さらに野生個体の寿命をどう調べるのかまで整理して解説します。
ツキノワグマとヒグマの寿命
日本では、本州・四国にツキノワグマ、北海道にヒグマが生息しています。環境省の資料によると、捕獲個体の年齢記録から推定される寿命は、ツキノワグマでおよそ15~20歳、ヒグマで20歳程度と考えられています。そのほかの違いは下表にまとめています。
| 項目 | ツキノワグマ | ヒグマ |
|---|---|---|
| 生息地 | 本州・四国の森林地帯 | 北海道の森林・山岳地帯 |
| 体長 | ヒグマより小型(具体値は資料に未記載) | ツキノワグマより大型(資料に「成獣はヒグマが大きい」と記載) |
| 体重 | 季節で増減。秋に脂肪を蓄え体重増加 | 同様に季節で変動し、全体的に大きい傾向 |
| 寿命(捕獲個体の記録) | 15〜20歳程度 | 20歳程度 |
| 出産 | 初夏に交尾 → 冬眠中に 1〜2頭 出産。育児期間は約1.5年 | 初夏に交尾 → 冬眠中に 1〜4頭(通常2頭) 出産。育児は1.5〜2.5年 |
| 冬眠 | 11月下旬〜12月に冬眠入り。3〜5月に覚醒。樹洞・岩の隙間を利用 | 同様に冬眠し、その期間中に出産することもある |
| 食性 | 植物中心の雑食。木の実、果実、草本、昆虫など | 雑食。植物質に加え、魚(サケ)、昆虫、死肉も状況により利用 |
(出典:環境省 クマ類の生態と現状)
野生の最高齢ヒグマの寿命
飼育下(動物園)での寿命
飼育下では食料不足や外敵の危険がなく、医療管理も受けられるため、野生より寿命が長くなる傾向があります。ツキノワグマの場合、飼育下の寿命は20〜30年とされ、明らかに野生より長命です。
(出典:大内山動物園 動物図鑑 ツキノワグマ)
さらに、2025年1月にはのぼりべつクマ牧場の雌グマ「マケンコ」が38歳を迎え、国内の飼育個体として最高齢になりました。エゾヒグマの38歳は人間に換算すると100歳超に相当します。
なお、飼育下のエゾヒグマの最高齢記録は円山動物園の雌「栄子」の41歳で、いずれの事例も安定した飼育環境が長寿に大きく寄与していることがわかります。
(出典:北海道ニュースリンク 「マケンコ」38歳に 歴代最高齢を更新 のぼりべつクマ牧場)
どうやって寿命を調べる
野生のクマの寿命を正確に把握するには、長期間の科学的な年齢推定が欠かせません。代表的な方法が、歯のセメント質年代輪(いわゆる年輪)による年齢判定です。
これは木の年輪と同じ仕組みで、季節ごとの変化によって歯の根元に濃淡の層が形成されるため、その“輪”の数を数えることで年齢を推定できます。1本の歯から高い精度で年齢を読み取れる点が特徴です。この分析は捕獲個体や死亡個体の歯を採取して行われ、野生の寿命データを集める基礎となっています。こうした蓄積により、ツキノワグマは15〜20歳、ヒグマは20歳程度といった寿命の目安が導かれています。
(出典:森林総合研究所 野⽣動物の年齢を調べる)
熊の一生|誕生から死ぬまでのライフサイクル
熊は、季節ごとの行動変化と繁殖周期を軸に、一生を段階的に進んでいきます。ここからは、誕生・成長・独立・繁殖・晩年までのライフサイクルを順を追って整理します。
誕生(0歳):冬眠中に生まれる小さな命
ヒグマは冬眠中(1月下旬〜2月上旬)に巣穴の中で子グマを出産します。生まれた直後の子グマはわずか約400gと非常に小柄ですが、春に母グマと共に巣穴を出る頃には4〜5kgまで成長します。
(出典:札幌市 ヒグマの生態・習性)
ツキノワグマのメスは数年おきに1〜2頭を産みますが、若い母グマほど育児失敗が多く、子グマの死亡率は非常に高いとされています。
(出典:四国ツキノワグマ保護プログラム ツキノワグマの生態)
ヒグマでも初年度の死亡率は2〜3割、翌年の春までの生存率はさらに低く、推定では約6割が命を落とすと報告されています。
(出典:知床博物館(2015)『長期観察が明らかにした子グマたちの生き様 ― ルシャ地区ヒグマ調査から その5』)
成長期(0~2歳):母熊から学ぶ生きる術
ヒグマ・ツキノワグマともに、子育てはメスのみが行い、オスは育児に関与しません。子グマは1歳半〜2歳半で独り立ちするまで、採食の方法、危険の回避、生息環境での動き方など、生存に必要な行動を母グマから学んでいきます。
(出典:環境省 クマの生態)
ツキノワグマ研究者の小池伸介によると、ツキノワグマでは、母グマを再び発情させる目的でオスが子グマを殺す行動が確認されており、これは子グマの生存にとって大きなリスクとなっています。実際に、オスに装着したカメラには子グマを殺している行動が記録されており、0歳の子グマの死亡原因の多くを占めると報告されています。
(出典:PRESIDENT Online メスに目配せした後、オスは子グマを食べた…ツキノワグマに装着したカメラがとらえた衝撃的な映像)
性成熟と繁殖(3~5歳以降)
ヒグマは3〜5歳頃に性成熟を迎え、繁殖が可能になります。繁殖期は5〜7月で、オスは行動範囲を大きく広げ、複数のメスを求めて山林を移動します。
(出典:札幌市 ヒグマの生態・習性)
ツキノワグマの性成熟はオスで2〜4歳、メスでおよそ4歳と報告されていますが、野生では実際に繁殖に参加する時期はさらに遅くなると考えられています。交尾期は6〜8月で、受精卵はすぐには着床せず、冬まで着床を遅らせる「着床遅延」という仕組みにより、出産時期が冬眠中に一致するよう調整されています。
(出典:環境省 「クマ類の人為的食物への依存や人慣れを回避する対策 ― 被害防除・出没抑制対策」(PDF))
クマの繁殖力については👇コチラの記事で解説しています。
熊は本当に繁殖力が高い?熊が何故ここまで増えたのか

熊の一年の過ごし方|季節ごとの行動パターン
熊は季節によって利用する餌や移動範囲が大きく変化し、その時期に応じた明確な生活リズムを持っています。ここでは春から冬まで、年間を通じて見られる代表的な行動の流れを整理します。
春(3~5月):冬眠明けと体力回復
冬眠を終えた熊は、低代謝の数カ月で失った体力を回復するため、積極的に餌を探し始めます。早春は植物の新芽や若葉、前年に落ちたブナやナラの実(ドングリ)などを主な食物とします。春に芽吹く若葉はタンパク質が豊富で消化しやすく、毎年安定して得られる点も特徴です。そのため、冬眠後の熊が体力を取り戻すうえで欠かせない重要な栄養源となっています。
(出典:WWFジャパン 日本に生息する2種のクマ、ツキノワグマとヒグマについて)
クマのエサについては👇コチラで解説しています。
熊のエサ不足が深刻化…原因は人間だった?

初夏(5~7月):繁殖期の活発な行動
初夏の熊は活動量が増え、アリやハチなどの昆虫類を採食する機会も多くなります。この時期は餌を求めて移動範囲が広がるため、人里へ接近する可能性が高まるとされています。特にオスは繁殖期に入り広い範囲を移動し、若い個体が独り立ちして新しい生活域を探す動きも見られます。そのため、多くの自治体では「初夏は熊との遭遇に注意が必要な時期」として情報提供を行っています。
長野県 夏の熊に注意
富山県 初夏のクマに注意!
茅野市 夏のクマに注意!
クマの行動範囲については👇コチラの記事で解説しています。
熊の移動距離はどれくらい?1日の行動範囲に驚愕

秋(10~11月):冬眠前の過食期
秋は冬眠に向けて栄養を蓄える重要な時期で、熊の採食行動が一年で最も活発になるとされています。ブナ・ミズナラ・コナラ・クリなどのドングリ(堅果類)や、ヤマブドウなど秋に得られる植物を昼夜問わず探して食べ続けます。また、日中・夜間ともに活動時間が長くなる傾向が報告されています。これらの堅果類が不作の年には、餌資源を求めて行動圏が広がり、人の生活圏へ接近するケースが増える要因になると指摘されています。
(出典:長野県 秋のクマに注意!)
人里に降りてくる「アーバンベア」については👇コチラの記事で解説しています。
アーバンベアとは?意味・原因・被害状況をわかりやすく解説

冬(12~3月):冬眠と出産
冬は餌の確保が難しくなるため、多くの熊は12月頃から翌年3〜4月にかけて冬ごもり(冬眠)するとされています。この期間は代謝を大きく下げ、ほとんど飲まず食わずで過ごします。メスは巣穴の中で出産し、子育てを続ける点が特徴です。また、冬眠中でも完全に眠り続けているわけではなく、音や振動に反応して一時的に覚醒することがあると報告されています。そのため、地域によっては冬季でも熊の痕跡が確認される場合があります。
(出典:増毛町 冬もヒグマに注意)
クマと冬眠については👇こちらの記事で解説しています。
寒さじゃない?熊の冬眠理由。冬眠いつから&冬眠しない個体の謎

よくある質問(F&A)
Q1. 熊は野生で何年くらい生きるの?
A. 日本の野生個体では、ツキノワグマは15〜20年程度、ヒグマは20年程度と推定されています。これは捕獲個体の歯の年代輪(年輪)を分析した調査結果に基づきます。生息環境や餌条件、個体差などにより寿命には幅があります。
Q2. 野生と動物園では寿命が大きく違うのはなぜ?
A. 飼育下では餌が安定して供給され、外傷・事故・餌不足のリスクが少なく、医療管理も受けられるため、野生より長寿になる傾向があります。ツキノワグマでは飼育下で20〜30年、エゾヒグマでは40年以上生きた例も報告されています。
Q3. 熊の年齢はどうやって調べるの?
A. もっとも一般的なのは歯のセメント質年代輪(年輪)解析です。歯の根元に季節ごとの層が形成されるため、その“輪”を数えることで年齢を推定できます。捕獲個体や死亡個体の歯を用いて行われ、科学的根拠のある年齢データが得られます。
Q4. 熊は何歳から繁殖できるの?
A. ヒグマは3〜5歳頃、ツキノワグマはオスで2〜4歳、メスで4歳が性成熟の目安とされています。ただし、野生では実際の繁殖参加年齢はさらに遅くなる場合があります。
Q5. 冬眠中に本当に出産するの?
A. はい。ヒグマもツキノワグマも、冬眠中の巣穴で出産することが共通しています。
まとめ
この記事では、熊の寿命の目安、1年間の行動サイクル、そして誕生から死までのライフステージについて整理して解説しました。
■ 本記事のポイント整理(熊の寿命・生態まとめ)
✅ 野生の寿命はツキノワグマ15〜20歳、ヒグマは20歳程度
環境省などの記録で示されている推定寿命。歯の年代輪解析から得られた科学的データに基づく。
✅ 飼育下では20〜40年以上と野生より長寿
外敵・事故・餌不足のリスクが低く、医療ケアがあるため寿命が延びる傾向がある。ツキノワグマは20〜30年、エゾヒグマでは40年以上の記録も。
✅ 野生の最高齢ヒグマは知床の「OR」34歳
歯の年輪から29歳時点で高齢と推定され、最終的に34歳で確認。多数の子を残した強い繁殖オスであったことがDNA分析から明らかになっている。
✅ 年齢推定は「歯のセメント質年代輪」で行われる
木の年輪のように層を数える方法で、高精度の年齢推定が可能。捕獲個体の年齢データの基盤となり、寿命研究に利用される。
✅ 誕生〜成長〜独立〜繁殖〜老年まで明確なライフステージがある
冬眠中に出産 → 母グマと共に成長 → 1.5〜2.5年で独立 → 3〜5歳頃に性成熟 → 高齢期には活動量が低下するなど、一生に共通するパターンが確認されている。
今回、熊の寿命について調べてみると、野生でも犬や猫より長く生きる場合があることを知り、意外に感じました。一方で、小熊の生存率が低く、背景にはオスによる子殺しなど複数の要因があることもわかり、生態の厳しさを改めて認識しました。
現在、熊の間引きや駆除の必要性が議論される中で、寿命や生存率といった基礎的なデータを理解することは、状況を冷静に考えるうえでも重要だと感じています。この記事が皆様のニュースを深く理解する一助になっていれば幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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