熊被害の外傷は顔が多いのは偶然?その理由とは

熊・野生動物

熊被害の外傷はなぜ顔に集中するのか?統計・行動学から総合的に整理する

近年の熊被害の報道を詳しく見ると、特に「顔の外傷」が目立つことに気づきました。これは偶然なのでしょうか。それとも、データや熊の行動特性に基づく理由があるのでしょうか。

秋田の田んぼに女性遺体 クマ襲撃か、頭や顔引っかかれるー日経新聞(2025年11月16日)

(出典:日テレNEWS 【クマ】クマ被害の多くが「頭・顔」に集中 全国各地で被害相次ぐ 秋田・湯沢市の住宅に居座りも ── ニュースまとめ )

本記事では、国内の統計、動物行動学の知見、専門家の見解、報道事例を整理しながら、「顔への被害」が多く見られる背景をわかりやすくまとめます。

■この記事でわかること

・熊被害による顔面外傷は他の受傷部位と比べてどれくらい多いのか
・何故熊は顔を攻撃するのか
・顔面外傷の重症度
・熊の被害件数の推移とどの地域が多いのか
・なぜ熊被害が増えているのか

私は証券会社で働いていた頃から、ニュースを数字や客観的な根拠とともに多角的に読み解くことを意識してきました。本記事も、皆さまが熊被害に関するニュースをより深く理解するための一助になれば幸いです。

熊被害の「顔面外傷」の圧倒的多さ

熊の被害において、顔の外傷が突出して多いことは複数の統計から明確に示されています。ここでは医療機関や報道が公表したデータを基に、その実態を整理します。

医療機関の症例データが語る事実

複数の医療機関の症例報告を確認すると、熊の攻撃による外傷は「顔」に集中している傾向が極めて強いことがわかります。秋田大学の研究では、熊に襲われた13例すべてで顔面外傷が確認されています。(出典:J-STAGE / 秋田大学「クマによる顔面外傷13症例の検討」(頭頸部外科 28巻2号, 2018年)

また、山梨県立中央病院の報告でも9例全例で顔面損傷が発生しており、顔への被害が必発している状況が示されています。
(出典:山梨県立中央病院. クマ外傷の9例の検討. 創傷. 2021;12(2):98-105. J-STAGE

さらに、読売新聞の報道では、受傷部位が顔面90%、腕70%、頭部60%とされており、顔が最も高い割合を占めています。これらのデータは、顔面被害が例外的ではなく、統計上も極めて頻繁に起きていることを裏付けています。
(出典:読売新聞 クマ人身被害、9割が顔面負傷…襲われたら専門家「首の後ろで手を組み体を丸め防御姿勢を」

顔面外傷の具体的内容と重症度

顔面への被害が多いという傾向は、損傷内容の深刻さにも表れています。公開されている報道では、眼球損傷や失明に至るケースが一定数確認されており、視覚機能に重大な影響が出る可能性が示されています。

また、鼻骨・頬骨・顎骨といった顔面の骨折事例も多く、広範囲に及ぶ損傷が発生している状況が報じられています。さらに、頭蓋底骨折のように頭部内部へ影響が及ぶ例もあり、顔面損傷が重症化しやすいことがわかります。

これらはあくまで報道ベースの事実ですが、熊被害が顔に集中する場合、その重篤度も高くなりうることがわかります。

(出典:文春オンライン 「眼球破裂で失明」「“顔のほとんどを失う”事態」になる人も…「対処する暇もない」クマに襲われた人々の“その後”と、生死を分ける“防御姿勢”

『命に別状なし』は軽症を意味しない

熊による負傷で「命に別状はない」と報じられる場合でも、その表現が軽傷を意味するとは限りません。重症例では複数回の手術が必要になるケースがあり、治療が長期化することもあります。

後遺症についても、視神経が損傷すると失明を避けられず、助かった場合でも複視(物が二重に見える状態)や流涙(涙腺の損傷により涙が止まらなくなる症状)が残るとされています。また、顔面神経マヒ(表情筋の動きが制限される)、唾液漏(唾液が止まらず流れ続ける)、不正咬合(噛み合わせに支障が出る)、神経因性疼痛(傷が治っても痛みが続く)など、多様な後遺症が指摘されています。

(出典:東洋経済オンライン クマに襲われた人たちの”深刻な現状”――「命に別状はない」ではすまされない体と心に残る深い傷。”クマ外傷”治療にあたる救急医から学ぶこと

なぜ熊は「顔」を集中的に攻撃するのか?

熊が人を攻撃した際に顔面への被害が多い背景には、行動学的・構造的な理由があるようです。ここでは報道や専門家の見解をもとに、その理由を整理します。

理由①顔の高さが熊の前足と位置的に重なる

熊が人と遭遇した際に「顔面の被害が多い」理由のひとつは、人間の顔が立ち上がった熊の前足の攻撃範囲にちょうど位置しているためです。

熊は威嚇や確認行動として立ち上がることがあり、その際に前足の真正面に人間の顔が来てしまうため、振り下ろしの攻撃が顔面に直撃しやすくなります。

さらに、熊の攻撃行動は上半身に向けて前足を水平〜斜めに振り下ろすパターンが多いとされ、これも顔面に傷害が集中しやすい要因になっています。

(出典:TBS NEWS DIG 【クマ襲撃】被害者の9割が顔面損傷…鼻がなくなり骨は粉砕「体を大きく見せようと立ち上がって…」医師が語るクマ外傷の実態 47歳男性はあの日を境に人生が一変

理由②顔面を「銃」とみなしているという見解

ヒグマ研究の第一人者として知られる門崎允昭博士は、長年の研究と現場経験から、ヒグマが人間の顔面を「銃」とみなしている可能性を指摘しています。博士によると、ヒグマは自分に向けて銃を撃った猟師の顔を脅威として記憶し、それを排除しようとする行動を取る場合があるとされています。このため、顔面への攻撃が集中的に行われるのではないかと解説しています。

さらに博士は、手負いになったヒグマは自分を撃ったハンターの顔を忘れず、特定して反撃することがあるとも述べています。その際、特に顔面を執拗に攻撃するケースが見られると報告されています。こうした説明は、ヒグマの防御・記憶行動に基づくものであり、個々の事例を踏まえた専門家の見解として紹介されています。

(出典:Number Web ヒグマに襲われ死亡したハンターの「顔面」は原形をとどめない…なぜ顔を狙うのか?

理由③──人間の急所を顔だと思っている

複数の専門家のインタビューでは、熊が人間の顔を急所として認識している可能性が指摘されています。秋田大学医学部附属病院の中永士師明医師は、

「クマは相手に飛びかかって倒すと、ひたすら噛んでくるケースが多く、急所として顔を狙ってくる」と述べています。また、「人間の顔を急所だと思って狙って攻撃してくるイメージで、負傷部位として下半身は少ない。顔面や首、頸動脈や気管を負傷する人もいる」

と説明しています。

(出典:東洋経済 クマに襲われた人たちの”深刻な現状”――「命に別状はない」ではすまされない体と心に残る深い傷。”クマ外傷”治療にあたる救急医から学ぶこと

さらに、東京農業大学森林総合科学科の山﨑晃司教授も、顔を狙う行動について

 

と述べています。教授は、

「人間が倒れた状態になると熊がのしかかり、顔を噛んだり引っかいたりする可能性がある。」

と述べています。教授は、

「人間が倒れた状態になると熊がのしかかり、顔を噛んだり引っかいたりする可能性がある。」

と指摘しており、攻撃の中で顔面が集中して負傷しやすくなる背景を説明しています。
(出典:集英社オンライン:「クマが顔を狙うのは、急所として認識しているから」被害を最小限に抑えるための方法を専門家が解説

熊被害が増加している背景

近年の熊被害は増加傾向にあり、その背景には複数の要因が重なっていると報道や公的資料で整理されています。ここでは、過去の統計推移、出没地域の変化、生態学的要因の3つの視点から現象をまとめます。

被害件数推移

環境省の統計によれば、熊の出没および人的被害は近年増加傾向が続いています。
(出典:環境省 クマ類の生息状況、被害状況等について

国の関係省庁が6日に開いた対策連絡会議では、年度上半期(4~9月)の出没件数が2万792件(速報値)に達し、過去5年間で最多となったことが報告されました。さらに、死者はすでに13人に上り、過去最悪の状況が確認されています。出没件数は上半期の時点で2024年度の年間件数(2万513件)を超えており、「異常出没」とされた2023年度のペースも上回っているとされています。

地域別では、岩手県が4499件で最も多く、秋田県(4005件)、青森県(1835件)、山形県(1291件)が続きました。一方、北海道は出没件数を公表していません。関西・中国地方では例年と同程度の傾向でした。人的被害の内訳として、5日時点で死亡者はヒグマによるものが2人、ツキノワグマが11人で、ツキノワグマによる死亡例のうち10件は東北地方で発生していたと報告されています。

(出典:朝日新聞 クマ出没は上半期で2万件、過去5年間で最多 「過去最悪」の被害)

出没エリアの変化

環境省の資料では、熊の出没範囲が従来の山奥から住宅地周辺へ広がっている状況が示されています。農地や集落周辺での目撃が増加しており、一部では都市部に近い地域でも出没が確認されています。
(出典:環境省 クマ類の生息状況、被害状況等について

また、人の生活音や環境に慣れた「アーバンベア」の存在が指摘されており、こうした個体が人間の生活圏へ近づきやすくなっているとされています。これらの状況は、熊の生息地と人間の生活圏との境界が次第に曖昧になりつつある現象として問題視されています。

アーバンベアについては👇コチラの記事で詳しく説明してます。
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熊の個体数増加と餌不足による行動範囲の拡大

環境省の資料では、熊の行動範囲が広がっている背景として、ドングリの豊凶が主要な要因として挙げられています。ドングリが凶作となった年には、熊が餌を求めて移動する範囲が通常よりさらに大きくなり、人里に出没しやすくなると示されています。
(出典:環境省 ツキノワグマ大量出没の原因を探り、出没を予測する

さらに、戦後に大きく減少した熊の個体数が、保護政策への転換によって増加してきたことも要因の1つです。個体数が増え、加えて餌不足の年に移動距離が伸びることが熊被害の増加につながっています。

熊のエサ不足は👇コチラの記事
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よくある質問(F&A)

Q1:熊被害は本当に「顔面外傷」が多いのですか?

複数の医療機関の症例データによると、顔面の負傷割合は非常に高いことが報告されています。秋田大学の13例、山梨県立中央病院の9例はいずれも顔面外傷が確認されており、報道でも顔面90%という統計が出ています。

Q2:なぜ熊は顔を狙うのでしょうか?

出典に基づく専門家の見解では、顔が熊の前足の攻撃範囲と重なりやすい位置にあること、急所として認識している可能性、脅威と判断する部位であることなど、複数の理由が示されています。

Q3:熊に襲われたときの被害はどの程度深刻なのですか?

報道では、眼球損傷・顔面骨折・頭蓋底骨折などの重症例が紹介されています。「命に別状なし」と報道されるケースでも、後遺症が残る場合があるとされています。

Q4:熊被害は近年本当に増えているのですか?

環境省と複数の報道によれば、2023〜2025年にかけて被害件数は過去最多を更新しており、増加傾向が続いています。2025年は上半期の時点で前年度を超えています。

Q5:どの地域で熊の出没が特に増えているのでしょうか?

岩手・秋田・青森・山形など東北地方で出没件数が多いと報じられています。北海道は出没件数を公表していません。関西・中国地方は例年並みとされています。

Q6:山奥だけでなく住宅地近くでも熊が出るのはなぜですか?

環境省の資料では、山奥から集落・住宅地周辺に出没範囲が広がっていると説明されています。また、人の生活音や環境に慣れた「アーバンベア」の存在が指摘されています。

Q7:熊の個体数が増えたことは被害に関係しているのですか?

戦後に減少した個体数が保護政策により回復し、一定の地域で増加しています。加えてドングリの凶作が発生した年には行動範囲が広がるため、人との接触が増えやすいと公的資料で整理されています。

まとめ

この記事では、熊の被害が「顔」に集中するという現象について、

医療機関の症例データ、専門家の見解、動物行動学的な理由、そして近年の出没状況の変化まで、複数の視点から整理しました。


本記事のポイント整理

顔外傷が突出して多いことは統計で裏付けられている
秋田大学・山梨県立中央病院の症例報告では、熊に襲われた全例で顔面外傷が確認されています。

読売新聞の統計でも受傷部位の90%が顔面とされ、顔への被害は例外ではなく「頻出する傾向」であることが明らかです。

顔を狙う理由には『行動学的』・『位置的』な要因がある
熊が立ち上がった際、前足の攻撃範囲と人間の顔の位置がちょうど重なること、顔を急所とみなしている可能性、脅威(銃)と結びつけて記憶しているという専門家の見解など、複数の理由が指摘されています。

「命に別状なし」でも顔面外傷は重症化しやすい
眼球損傷・骨折・頭蓋底骨折など重い傷害が報告されており、複視・流涙・顔面神経マヒ・唾液漏・不正咬合など、報道上でも多様な後遺症が紹介されています。「助かった」という報道があっても、軽症とは限らない点が特徴です。

熊被害が増えている背景には“出没地域の変化”と“個体数・餌不足”がある
環境省の資料では、熊の出没が山奥から集落・住宅地周辺へ広がっていることが示されています。

さらに、ドングリ凶作による餌不足の年には熊の行動範囲が拡大し、人里への出没が増えるとされています。戦後の保護政策による個体数増加も影響しています。

東北地方を中心に出没・被害が集中している現状がある
2025年上半期だけで出没件数が2万件を超えており、死者数も過去最悪となっています。岩手・秋田・青森・山形の4県で多くの事例が報告されており、地域的偏在も特徴として確認できます。

今回、熊による被害の中でも「なぜ顔の負傷が多いのか」を調べていく中で、専門家の見解から、熊が人間の“急所”として顔を攻撃する場合があること、さらに脅威の排除という行動の一環として顔面を狙いやすいことがわかりました。

また特に印象的だったのは、ニュースでよく使われる「命に別状はない」という表現が、決して軽傷を意味しないという点です。実際には複数回の手術が必要になる例や、後遺症が残るケースも報じられており、見出しだけでは伝わりにくい深刻さがあります。

熊の突進は力士の倍以上の衝撃があると私の別の記事でも紹介しましたが、そのような強大な力と鋭い爪で受ける攻撃がいかに重大な損傷を生むのか、今回の調査で改めて実感しました。

この記事が皆様のニュースを深く理解する一助になれば幸いです。

 

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